矢崎敏 待望の短編集第2段。
「Ghost lovers」
幽霊は怖い。しかし、愛する人の幽霊はどうだろう?幽霊であっても会いたいのではないだろうか?
そんな誰にでもあるちょっと不思議な世界を描き出すミステリー作品5編。
セミの悪戯、ホワイトデー、ラーメン店にて、ワラシ、金貸しの順序
■セミの悪戯
恒例の信州への里帰りで、妹と墓参に来た登紀子。
近道の獣道を歩き、一輪のリンドウを見つける。故あって離れて暮らす15歳の息子ケンタが、幼い頃リンドウ好きの登紀子に摘んでくれたことを思い出す。
墓にたどり着き手を合わせ祈っていると、頬に水が一滴。よく晴れているのに、雨だろうか?そしてそこに、そのセミが・・。
血を分けながらも別離せざるを得ない親子の間に流れる不思議な時間。胸がキュッと締め付ける、温かな物語。愛しい人はいつも側にいる。
■ホワイトデー
寒い夜、疲れた体で家路を急ぐスミ子。六本木の路上で、一人の紳士とすれ違う。すれ違いざまに「お疲れさま」と紳士は声を掛けて来る。誰だ?
電車で自宅のある砂町に戻り、スーパーに入ると、また見知らぬ男性から、声が掛かる。誰だ?
回想、悔悟、惜別の悲しみ。あの人との懐かしい時間。降り出した雪。身を包む白い空気。そうか今日は、ホワイトデー。
■ラーメン店にて
暑い夏、やがちゃんは馴染みのラーメン店に行った。
「暑い夏には熱いラーメンと辛いキムチが必須である」これがやがちゃんのモットー。
マスターの身の上話を聞きながらラーメンをすすっていると、一人の若者の客がやって来た。何故か様子が急変したマスターは、注文されていないチャーシューを彼にサービスする。いったいこの若者は誰だ?
矢崎敏、真昼の熱いミステリー。
■ワラシ
ある年の盆に、小学4年生になる息子を連れて久々に妻の実家の榛名に行った主人公。
独居老人の義父は相変わらず頑迷で、愚痴やあてつけがましい文句ばかり。危うく口論になりかけたその夜、山に囲まれた二階の部屋で彼が見たものは。
不器用な義父と家族のあり方を描いた、「ワラシ」。
あなたにとっての故郷とは、田舎とは何でしょうか?
■金貸しの順序
破産をした後、ヤクザと関係を持ち違法金融業を始めた主人公。高利で金を貸し、借り手を追い込み、剥ぎ取る毎日。信じられるのは、人では無く、金。妻子とも離れ、心が荒む日々。ある夜、酔って探し回り、ようやく見つけて入った、懐かしいうどん店。そこで彼が見たものは・・・。
矢崎敏が人のあり方、心のあり方を描いた「金貸しの順序」。あなたの心の整理をしたい時に・・・